
さいわい竜に気付かれることもなく
一行は山の中腹にある
秘密の入口に辿りつきました。
(場所はあの地図に記されていました)
でも、困ったことに、その開け方が
分かりません。

みんなが頭を抱えていたその時です。
どこからか、一羽のツグミ
(そうは見えませんが)が現れ、
ビルボのすぐ近くにある黒い石を
つつきました。
ビルボはすぐに、裂け谷のエルロンドが
解読した月光文字を思い出しました。
「さあ、トーリン、今こそ鍵を使う時です!」

今ではトーリンもすっかり呑みこめました。
ツグミが石をたたくと同時に、扉に
鍵穴ができたのです。
「おお!この中に先祖たちの宝が!!」
おやおや?中には宝だけでしたか?
「そうじゃった・・・中には恐ろしい竜も居たのだな。さあ、忍びの者ビルボよ、
その素晴らしい指輪と技術とで、ちょっと様子を見て来てくだされ」
ビルボの指輪の秘密は、ドワーフたちを闇の森から助ける際に明かしていました。
彼らは今やビルボをお荷物とは思わず、はなはだ高くかっていましたし、
アテにもしはじめていました。
仕方なくビルボは暗い道を降り、たった一人で竜の棲み家へと進みました。
「竜ってこんなに大きいのか!」
おとぎばなしには聞いていましたが、
初めて見る竜はやはり大きく
ビルボは恐れ慄きました。
しかし、幸い黒竜スマウグは
眠っているようです。

「よし、ちゃんと竜の所まで行った証拠に
宝をひとつ持って帰ろう。驚くぞ」
相手が眠っているとわかったビルボは
気が大きくなり、手近な宝を持ち出しました。
ドワーフたちはたいへん驚き、また喜びました。
特に、霧降山脈でその目をかいくぐられて以来、ビルボに敬意を
払っていたバーリンは、宝よりもビルボの帰還に喜びました。
しかし喜んでばかりも居られませんし、この方法を続けるワケにもいきません。
「あんたに最初に分け前を選ぶ権利を与えるから、
今度は竜の弱点を盗んで来てくだされ」「そんな無茶な!」
でも結局、ビルボはもう一度降りていくハメになりました。

「きたな、このどろぼうめ」
スマウグはもう眠っていませんでした。
「さあ、ここにはお前が百年通っても持ちきれん
ほどの宝がある。近くに来たらどうだ」
「いえいえ、あなたのような立派な竜を
出し抜くなど不可能です!」
とっさにビルボは竜をおだてました。
「どろぼうにしては口がうまいな」
「いえいえ。しかし一般に竜は腹の守りが
弱いといいますが、あなた様はどんな対策を?」
「ダイヤのチョッキを着ておる。見ろ!」
おだてられて気分のよくなったスマウグは
自慢の鎧がビルボによく見えるように
体の向きを変えました。
その胸には大きなつぎはぎがありましたが
ビルボはそれを口にせず、ただ誉めました。
「非の打ち所なし!ですな。では、私はどっさりいただく準備がありますので。ごきげんよう」
いくらビルボが最後に一発くらわしてから帰りたいと思ったにしても、この一言はやりすぎでした。
竜は大いに怒り、自分用の大きな出口から飛び立ち、ドワーフたちの居る秘密の入口
(自分が使えないだけで、スマウグはその存在を知っていました)を
めちゃめちゃに攻撃し、それでも飽き足らず湖の町を炎で包みました。

街の者の多くは舟で逃げ出しました
(そしてその多くは、スマウグが舟ごと
焼き尽くしてしまいました)が
警備にあたっていた弓矢隊の隊長・バルドは
その矢の最後の1本が尽きるまで戦う
つもりでした。
そしてまさにその最後の矢をつがえた時、
あのツグミがやって来たのです。
「チョッキの胸に穴がある。そこを狙え」
「よし!あそこか!」

ぎゃおおおおおお!!
これが黒竜・スマウグの最期でした。
そして、美しい湖の町・エスガロスの
終わりでもありました。
いっぽうのはなれ山では、竜が攻撃を仕掛ける前に、一行の全員が
中に逃げ込んでいたため、特にけが人も出さずにすんでいました。
しかし入口はもうめちゃめちゃで戻れそうにありません。
そこで、どうやら竜が留守らしいとの推量から、ビルボを先頭に
全員が(といっても他の仲間はずっと後ろです)穴を降りていくことにしました。

さて、改めてじっくりと竜の棲み家
(本当はトーリンらの先祖の城なのですが)を
歩くビルボの目に
ひときわ美しい石が映りました。
「ドワーフたちはわたしに好きな分け前を
選ばせてくれると言った。これにしよう」
これこそが山の精髄・アーケン石でした。
実は、トーリンが全ての宝よりもこの素晴らしい天然石を大事に思っていることを
ビルボは知っていましたし、この石がそれであることもひと目で見抜いていました。
「これで本当にどろぼうだ」
あとあと大きな問題になるだろう事に気付いていながらも、
ビルボはこれを手に入れずにはいられない気がしたのです。
そして結局、それはほんとうにそうだったのです。

そんなことを知らないドワーフたちは
自分たちの先祖の城から竜が消えたことを知り
たいへん気分を良くしていました。
「ビルボどの。あなたの働きに対する
最初のお礼が見つかりましたぞ」
トーリンも嬉しそうに、ビルボにミスリル銀で
できた鎧を着せました。
しかしその目がずっとアーケン石を探していたのは
言うまでもありません。