指輪物語「追補篇」より
デュリンの一族

むかしむかし、ドワーフのご先祖たちは
霧降山脈の東にある洞窟に住み、
坑道として発展させていきました。
トンネルでもあり、城でも街でもあるそこは
モリアと名付けられました。

モリアは永く栄え、ドワーフたちは平和に
暮らしていたのですが、デュリン
(由緒正しい名前なのでよくつけられました。
このデュリンは六代目にあたります)の世に
貴重なミスリルという金属を求めて
深い深い穴を掘っていたドワーフが
とんでもない怪物・バルログの眠りを
さましてしまいました。

ドワーフたちは勇敢に戦いましたが
デュリンが討たれ、その息子までもが討たれた
ため、最後には孫のスラインが、残った者たちを
連れて、モリアを逃げ出さなければ
なりませんでした。

スラインは「はなれ山」を新たな住いとし、
工事を開始しました。
彼らはここで、山の精髄がこりかたまった
大宝石アーケン石を見つけます。
しかしはなれ山は資源が乏しく、スラインの息子トーリン(このトーリンは
我らがビルボとともに旅をする、あのトーリン・オーケンシールドではありません)
の代には、一族はあっさりとここを去り、ずっと北にある、ほとんど手付かずの
資源がうなっている灰色山脈へとまた移って行きました。
おいしい物件には気をつけなければならないのはどこでも同じです。
灰色山脈が豊かな資源を持ちながら主を持たなかったのには
やはり理由がありました。
ほど近い荒地のくにに、恐ろしい龍たちがいたのです。

龍は、自分では壊すことしかできないのに、よくできた細工、それも
貴金属でできたそれらが大好きです。そんな連中の近くに
美しい工芸品を作るのが得意なドワーフたちが来れば
どんなにひどいことが起こるかは、言うまでもありません。
トーリンの孫の孫にあたるダイン(このダインも、ビルボの冒険に
出てくるダインではありません。ドワーフたちは、一族の長に
同じ名前を何度も用いるのです)は、大冷血龍に命までも
うばわれてしまいました。

ダインには3人の息子がいました。
スロール、フロール、そしてグロールです。
三男のグロールは、多くの家来を
連れてくろがね丘陵へと去り、
次男フロールは、父と運命をともにし、
長男のスロールが、残った民と
アーケン石を持ってはなれ山へと
帰って行きました。

スロールとその民たちは、近くの人間たちとも
交易をもち、次第に富み栄えました。
少しさびしい資源も、くろがね丘陵との
ひんぱんなやりとりでまかないました。
永く苦しい冬の時代が終わり、
はなれ山の館では、宴と歌の絶えない日々が
続くようになりました。
しかし、それも龍の耳に入るまでの短い春でした。

灰色山脈の件で、襲うならドワーフの砦に限ると
知ってしまったので、当時の龍でも最強・最大の
スマウグが、いきなり飛んできて
はなれ山を乗っ取ってしまったのです。

なんとか逃れたスロールは、
少ない縁者や忠実な戦士らとともに
帰る家を持たない流浪の旅へと
押しやられてしまいました。
けっきょく、スロールは流浪の貧しい身のまま年老いてゆきました。
ある日、彼は息子のスライン(2世)に自分が最後まで持っていた宝、
『七つの指輪』(詳しくは「指輪物語」を)の最後の1つを与え、自分はナルという名の
老ドワーフ1人を連れて仲間の元を去ると言い出しました。
スラインは問います。
「まさか、はなれ山に戻るのではないでしょうね」
スロールはゆっくりと首を振りました。
「わしは老いた。残念じゃがスマウグの
ヤツへの復讐は、子孫らに残しておく」・・・
こうしてスロールは、仲間たちの元を去りました。
一族の者たちはたいへんに悲しみました。
でも、この後にドワーフを包む悲しみからすれば、それはまだ、
悲劇のほんの入口でした・・・・